FLOOR 14

14Fに到達したあゆみは探索を進めようとしたところ、不意に強い殺気を感じた。
「……落ち着かなきゃ、これは幽霊なんかじゃないわ」

立ち塞がったのはエスバットの一人、ライシュッツと名乗った老人であった。

「たち……?」
老人の言動に違和感を覚えたものの、手元のブック・オブ・シャドウズも数に含まれているのだろうと考え、ひとまず納得した。

「アーテリンデお嬢様から、樹海の奥に進むなと警告されているはずだ!」
「そんなの勝手よ!私には私には用事があるんだから!」
「……」
「何?また炎のアレみたいにミッションを受けて来いっていうの?受けたら通してくれるの?」
「とにかく、ヌシらにこのまま進まれては、我らが困るのだ」

いよいよなりふり構わなくなってきたな、と思った。
このエスバットというギルドは、きっとあゆみが諸王の聖杯を手に入れないよう、「涅槃」が仕向けた存在なのだ。
あゆみはそう判断し、勇気を振り絞って強気に出る事にした。

エスバットの老人が話を続ける。
「警告を無視して迷宮の先に進んだときは……」

「お、覚えたわ!じゃなくて、上等よ!」
いまいち決まらないあゆみだった。

… … …

というわけで、14Fの探索開始である。
新しく出て来る敵といえばこの赤い魚。
こいつのスキルである流氷の尾びれは、若干威力が低いので十分耐えられる。
むしろ通常攻撃の方が100くらい喰らうので危険があぶない。

探索中、またしても氷の床を発見し、更に目玉の代わりにゼリー状の魔物が徘徊しているのを発見した。
そして、丁度良く氷の塊まである。
「よーし、またこれをぶつけてやっつけちゃお」

そう言っていつものように氷の塊を少し押して、勢いよく飛んでいく塊を眺めていたところ、あゆみは驚くべきものを目にする。

「いやあぁあ!」
氷の塊はゼリー状の魔物によって弾き返され、あゆみに激突した!
衝撃で気を失いかけるものの、なんとか持ち直した。

あゆみは、落ち着いてから改めてゼリー状の魔物を一瞥する。
魔物は塊をぶつけられた事に対して怒るわけでもなく、ただそこに佇むのみであった。
「もう……何なのよ……」

… … …

この階の敵で、文句なしにやばいやつといえばこいつ。
力溜めからの殲滅の牙で、DEFENCEしていようと確実に殺しにかかってくる。
しかも見た目通りHPが高いのでそう簡単に倒れない。 対策は頭封じ。頭が封じられていれば、ずっと力溜め→失敗を繰り返すので、完全に無力化できる。
頭封じが早く切れたり、他の敵と一緒に出た場合は状況次第でESCAPEするのが無難。

そもそも、ライフトレードをLv20にしたことで消費TPが60と非常に高い。
勝てないor勝つのが難しい戦闘は極力避けて、ESCAPEをうまく使うべき。
……と言っても、まだ倒してない敵とかだと素材の為につい倒しにいっちゃうんだけど。

… … …

「あれ?何か光っているような……」
あゆみは、真っ白な雪の中で光る何かを目ざとく発見する。
天神小での経験によって、物を発見する感覚が鋭くなっているのを実感する。

光る物を手にしてみると、それは首飾りのようだった。
「亜衣子さん、こういうのも交換してくれたりするかな?」
握ってみると、魔力が込められているのがすぐに分かった。
これも篠崎の血のおかげなのだろうか……。
だが、そんな思考は突如鳴り響いてきた低い音によってかき消される。
「えっ、な、何!?」

音が鳴る方を見上げた時にはもう遅く、一瞬にしてあゆみの視界は白く染まっていく……。

… … …

「し、死ぬかと思ったぁ……」
ブック・オブ・シャドウズが機転を利かせたようで、かろうじて雪崩の下敷きは回避できた。
この全身の痛みは、黒魔術の糧とすればよいのだ。
自分でも気付かないうちに思考が変化しているあゆみであった。

… … …

一度街に戻り酒場に向かうと、新しい依頼がいくつか出ていたので早速受けてみる事にした。
特定の時間帯になると冒険者が襲われるというものだ。

「この依頼か、これがまた不思議な事が起きててな、」
酒場のマスターは説明を始める……。

昼の間、13Fで冒険者が獣に襲われる被害が後を絶たないという。
それだけなら樹海を探索していればよくある事ではあるが、不審な点があるらしい。
「襲われたヤツの荷物が、すっかりなくなっちまってるんだよ」
「それって……獣が荷物も取っていってるって事?」
「ばっかお前、本当お人好しだな……獣が興味あるのはそっちじゃねえだろ、って事はだな」

見当も付かないといった顔でぽかんとするあゆみ。
いくら冒険を続けて強くなっていようと、この辺の勘はさっぱりである。

「例の盗賊が絡んでるんじゃねえか、って俺はみている。どうよ?興味あんだろ?」

… … …

「そろそろ出て来る時間よね」
言われた時間まで暇を潰した後、13Fにやってきたあゆみ。
街ではこの時間帯は危険な時間だと思われており、衛士隊も出動していないとの事だった。
誰の助けも得られない状況。それでも件の魔物を求めて雪道を歩く。
「この本があるから私、平気よ」

一度獣の集団に遭遇したものの、それは冒険者達を次々と屠る強さには思えなかった。
「ふう」
深呼吸した瞬間、何がが背中に衝突し、あゆみは顔から地面に倒れ伏す!

「きゃああっうぷっ」
思い切り雪を飲んでしまった。
顔についた雪を振り払いながら慌てて立ち上がるも、あゆみは奇妙な光景を目にする。

「よく分からないけど……今なら!」
そう思うよりも早く笛の音が鳴り響き、たちまち魔物は活性化する。
「まさか、いまの音って!?」
たちまち豹変した魔物は、再びあゆみに襲い掛かった。

このクエスト、1戦目は負けた。
攻撃力が高すぎる(ダメージ200オーバー)うえに、こちらのHPが80減った状態で戦闘開始するため、どう足掻いても運が絡む。
なぎ払いは腕技なので、最初のターンに腕を封じてから病毒を使えれば少しは勝率が上がる。
が、今作の腕封じは攻撃力ダウンの効果がないうえに、通常攻撃も半々くらいの確率で使って来るので、やはり運ゲーである。

2戦目は何故か2回ほど攻撃を回避したので勝てた。

… … …

魔物の強さに焦ったもののなんとか撃破し、息も絶え絶えなあゆみの前に、一人の衛視が現れた。
疲れているようだしこれでも飲んで一息、と水筒を差し出されたあゆみは、水筒に口を付ける。
その時だった。

「篠崎いぃぃぃぃぃ!!」

あゆみが持っていた水筒は、何者かによって乱暴に地面へと叩きつけられる。
「うぷっ……ごほっごほ……?」
聞き覚えのある声がした。
声の主は、あゆみが振り返る前に目の前の衛士とあゆみの間に立ち、バールのような得物を構えた。

「岸沼君!?」
その姿は、間違いなくあゆみが知っている良樹であった。
呆然とするあゆみ。
それも束の間、あゆみは猛烈な口内に焼けるような痛みを感じる。

目の前の衛士、もとい盗賊は良樹を見るなり身体を翻し、捨て台詞を吐いて樹海の奥へと消えていった……。
一方あゆみはというと、先程口に含んでしまった水に含まれる毒に苛まれていたおり、盗賊の方を見ている余裕はなかった。
「熱い!痛い!けほっけほっ、岸沼君!!助けっおえっえええぇぇぇぇ!!!」

… … …

「はあ……はあ……そういえば、岸沼君は」
毒を何とか吐き出して落ち着いた頃、辺りを見回してみたものの、良樹の姿はどこにもないなかった。

「肝心な時にいないんだもん……口の中痛かったんだから」

ブック・オブ・シャドウズは思った。
何言ってるんだこいつ、と。

… … …

このマップは正直そこまで長くないので、クエストとこの編成で死んだ以外は特に問題なかった。

「15階で待つ、とか言ってたわね……」
あの2人と本当に戦う事になるのだろうか?
あゆみは、意を決して次の階段を上った。

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笛に操られし魔物に粉砕された篠崎あゆみ x1(累計:455)
篠崎あゆみ x1(累計:456)