「ひいっ」
まず驚いたのはその高さである。
あゆみは、ブック・オブ・シャドウズを使っても到底上がれないであろう高さにいた。
……今ほど使いこなせているのなら、もしかしたら上がれるかもしれないが。

なるべく下を見ないように前に進もうとしたところ、突然、脳内に直接声が聞こえてくる……。

「誰！？」
咄嗟に振り返るも、転送装置が見えるのみ。
「此処は天の主。オーバーロードたる我が英知を込めて築いた場所。許可なく立ち入ることは許されぬ」
オーバーロードと名乗るその声に、あゆみは胸を張って言う。
「ここで喋って聞こえるのかな……？」と思いつつ、思いっきり叫んだ。
「諸王の聖杯が必要なの！」
「聖杯！それこそ我が力の源にして永遠の命を生み出す装置。これにより人を死の運命から救うのだ。あと、別に叫ばなくても良い」
「あ、そうなんだ」
ふん、と鼻で笑い、続けた。

「………」
「心してくるが良い。汝の終わりの場所となるであろう」
声からでも分かる圧倒的な存在を前にして、あゆみはただ立ち尽くすしかなかった。

それにしても、ここはよく冷える。
少し経って我に返ったあゆみは、目と鼻の先に見える樹海磁軸へと小走りで向かった。
「……早く帰って、しとこ」

「頼みたいこと？」
天空の城に挑む準備を進めていたら、珍しく酒場のマスターから依頼を渡されたのである。
「なんかおちつかねぇようだったからさ、聞いてやれよ、な？いつも世話になってんだろ」

話を聞きに行ってみたものの、要領を得ない。
ついに「ごめんなさい！やっぱりいいですそのお仕事！」などと言い出す始末。
「気になるじゃない、話してみてよ」
あゆみは説得を続け、交易所の娘はどうにか話してくれるようになった。
仕事は至って簡単、ヒナに餌をやるだけ。

「その場所ならこの本ですぐ移動して行けるから、大丈夫よ」
あゆみは快諾した。
「エサは用意したんです！これを持っていって下さい！」

「超鳥缶……？」
「なかなか手に入らないんです！エヘヘ、すごいですか？」
「ネーミングセンスが」

依頼を一通り終えて、天空の城探索を始める事にしたのだが……

「えっ何……きゃああっ！」
1戦目にして不意を突かれ、死にかけるあゆみであった。

順調に探索を進めていたはずが、いつの間にか追いつめられていた。
「うぅ……レッドヘルムくらい無駄な動きしてくれればいいのに……」
オーバーロードなる者が造ったであろう機械兵は、的確にあゆみを狙ってくる。 これには為す術も無く、アリアドネの糸を使う他なかった。

天空の城の通路にて、見覚えのあるものを発見した。
「あれ？これって……もしかして」
それは、元いた世界のどこにでもある、自動販売機にそっくりであった。

元いた世界の痕跡が残っていないか、隅々まで調べてみたものの……妙にメンテナンスが行き届いた自動販売機は、確かに天空の城で造られたもののようだった。
あゆみは肩を落とすものの、気を取り直してボタンを押してみる事にした。
すると、再びオーバーロードの声が聞こえてくる。

「ほう、我が技術の粋を集めた自販機を使いこなすとは……興味深い」
「私がいた世界だと、これくらい普通だったわよ」
どこか得意げに話すあゆみ。
そんな事をしているうちに、自販機から紙製の器に入った温かいスープが出てきた。

「これって食べられ……ううん、食べられる気しかしない」
「心配せずとも、それは問題なく食べられ……何だ、もう食べているのか」
あまりの無警戒っぷりにオーバーロードも驚きの声を上げる。

「おいしかったけど……次は具材も用意してよ」
軽くなった足取りで、あゆみは探索を続行した……。