■はじまりのきのこ ハイ・ラガード公国の中心にそびえ立つ、世界樹と呼ばれる巨大な神木。 その樹の頂きは、空飛ぶ城へと繋がっているという伝説がある。 大公は真偽を確かめるべく、触れを出し世界樹の踏破を目指す冒険者を集めているのだという。 そんな樹の中から出てきた少年、ファビオは食材をいっぱいに詰めた籠を手に樹を見上げ、そっとため息をついた。 彼もまた、伝説の解明を志す冒険者の一人……と思う者は恐らくいないだろう。 特徴的な呪鈴と鎖は彼が呪言師であることを記号的に表しているものの、そのくすんだ緑髪にくたびれたローブ、何より覇気のない目つきを見ればとてもじゃないが伝説の解明を目指す冒険者とは思えない。 実際、彼は日課である食料探しの為だけにこの樹を訪れ、今はその帰りなのであった。 彼の住居は、ハイ・ラガード公国の街外れの更に外れに位置している。 そこは城門の外、ならず者が跋扈する領域。 整備が放棄されたように見えて、最低限の秩序が保たれている街路を、彼は平然と歩いていく。 今はどうあれ、かつては名のある呪言師としてこの地に名を馳せた家系である彼に、食って掛かる者などいない。 無言で家の鍵を開け帰宅した彼を迎えるのは、人が一人で暮らすにはいささか広めの部屋であった。 両親は、呪言師としての仕事で出張に出たままもう何年も行方が知れない。 1年前、必ず送ると言っていた便りが途絶えたあたりで、きっともう死んだのだろうと彼は考えていた。 呪言師の最期なんてそんなものである。 どんなに優秀でも、上層部にいいように利用された末に「事故死」する事になっているのだ。 それが怖くて、彼は呪言師としての才能を活かす事なく、ただ無為に日々を過ごしていた。 今日も空腹を満たせるだけの食材を持ち帰り、野菜スープを作ろうとしているところだった。 まずは鍋に水をいれ、火にかける。 籠から、今日使う分の食材を取り出す。トマト、にんじん、たまねぎ、しいたけ、キャベツ。 まな板の上はたちまち野菜でいっぱいになった。 沸騰したらまずキャベツを入れて柔らかくする必要がある。彼は慣れた手つきでキャベツを刻んだ。 更ににんじんを角切り、たまねぎを千切りに。それから鍋が沸騰するまでにトマトをよく潰してペースト状にする。 鍋を一瞥し、まだ沸騰していない事を確認する。術式をもう少し強くしてもいいかもしれない、と判断した彼は、鍋の火力を再設定した。 ここで、今日は珍しく肉が手に入った事を思い出した。上の階からの帰りらしい熟練冒険者の一団が、どうせ捨ててしまうからと気前よく鹿肉を譲ってくれたのだ。 この街には、何も冒険者だけが集まるわけではない。世界樹の豊富な資源を求めてやってくる手合も、一定数存在する。 しかし大公宮が世界樹への立ち入りを認めるのは、1階の地図を作成し指定の木札持ち帰る試験を達成できた「冒険者」のみ。 そこで自然に生まれたのが、目的を同じくする者達で即興パーティを組み試験を達成するという文化だった。 何を隠そう、彼もまた1年前から同じ方法で試験を達成し、堂々と世界樹に出入りしている。 だが、試験において大きな壁として立ち塞がるのは、通路を我が物顔で徘徊する――狂乱の角鹿と呼ばれる強大な魔物の存在だ。 冒険者でもない、今後なる気もないような人々にとっては、これが脅威となる。 そのような強大な魔物から逃れる知恵もなく、打倒する力もない人々がどう対処するのか? これが簡単な話で、強大な魔物が熟練の冒険者達によって「偶然」討伐されているタイミングで試験に臨めば良いのだ。 冒険者を呼び込む為、鬼乎ノ1日を除けば毎日のように試験を受け付けている大公宮といえど、樹海の魔物まで管理しようがないからである。 もっとも、このような「偶然」が発生した場合、しばしば裏で大金が動いているのだが。 彼が今日受け取った鹿肉も、要はそういうルートでやってきたものだろう。 野菜とは別の籠に入れていた鹿肉を取り出した彼は、帰宅してから初めての笑みをこぼした。 今日はスープだけでなく、おこぼれとは言え肉も食べられる。 どうせ一人しかいないのだ、氷の術式をよく効かせた箱で保存しておけば、一週間分の食事にはなるだろう。 まずは今日使う分を切り分けてしまおうと、鹿肉の塊を持ってまな板の方を見たその時、彼は目にした光景に違和感を覚えた。 キャベツの千切りがやけに盛り上がっている。 更に近づくと、山盛りになったキャベツの下から、人間の――それも、少女の首から下の部分が生えているのが見えた。 両手はまな板に突っ伏すような形になっており、両足は床に付いている。 「な……」彼は帰宅してから初めて声を発した。「なんだこれ!?」 彼は今にも後ろに倒れそうな少女の身体を背中から支えつつ、恐らく頭部が存在するであろう部分からキャベツの千切りを取り払った。 案の定出てきたのは少女の頭。栗色の髪。うつ伏せになっていたので頭を起こし、くるりと一回転させて正面を向ける。緑色の瞳は気のせいか涙ぐんでいるようにも見える。 少女は一糸纏わぬ姿であり、流石に目のやり場に困ったので椅子に腰掛けさせた後に別の部屋から適当なローブを持ってきて羽織らせた。 鍋からぼこぼこという音が聞こえてくる。どうやら沸騰したようだが、彼にとってはもはやそれどころではなかった。 「なあ、誰なんだ、お前」 それは当然の疑問。彼からしたら、台所に突然少女が「発生」したようにしか思えないのだから。 これだけ堂々と姿を晒しているのだ、よもや忍び込んだというわけでもあるまい。 何も話そうとしない少女に、彼がしびれを切らして再び口を開こうとした時。 「うえ……」少女が何やら声を発した。 「うえ?」 「うええええええええええええええええええええええん!!!!」 少女は泣き喚いた。 その瞳からは大粒の涙が次々と溢れていく。 「くそ!」彼は悪態をついた。「いきなり泣き出しやがって、本当何なんだお前」 少女がこんな所にいると周囲に知れては面倒だと判断した彼は、咄嗟にテーブルクロスを掴み少女の口をぐるぐる巻きにして塞いだ。 「んー!んー!」 「いいから静かにしろ」 少女は驚くほど無抵抗だった。テーブルクロスで口元を縛るまでの間も、まるで手の使い方を知らないかのように――というよりは、泣く事しかできない赤ん坊のように何の抵抗もしなかった。 見た目上は15歳前後に思えるのだが、その中身が伴っていないように感じた。 無闇に暴れたりする事もなく、泣き声を封じたのもあって、ようやく彼にも落ち着いて考える余裕が出てきた。 そう、まずは沸騰した鍋を何とかしなければならない。若干水の量が減ってしまったように思うが、今更追加するのも面倒だ。 まな板に散らばった野菜を鍋に放り込んでいると、彼はある事に気付いた。 後で切ろうと思っていたしいたけが、なくなっている。 確かに今日、樹海で取ってきたはずのしいたけが見当たらない。 彼の数少ない好物のうちの一つであり、大きめの 念の為籠を覗いてみたが、野菜を入れていた方は空っぽだ。全てこの手でまな板の上に乗せておいたのだから。 ただ、まな板の上で異変があったとするなら。 彼は再び少女の方を見た。泣き疲れたらしく、すーすーと寝息を立てる少女は本当に赤ん坊のようで。 「ん?」 最初に見た時は栗色の髪に紛れて気付かなかったそれは。 「こいつ……頭にしいたけ付いてるな」 彼をある驚くべき結論へと導いた。 「いや、このしいたけから身体が生えてきたんだ」 そう考えれば納得のいく事がある。それは先程、あれだけ泣き喚いていた事に対する一つの答え。 「何しろさっきまで、そこのまな板でたまねぎ刻んでたからな……」 ■ ■ ■ そして5年後。 青年は、いつものようにいっぱいに食材を詰めた籠を両手に、帰路につく。 今日は大事な話をしなければならない。少しばかり気が重かったが、どうせいずれ必要な負担だ。 気を紛らわす為に夕飯のメニューについて考えているうちに、いつの間にか家の前に着いていた。 「帰ったぞ、シュシュ」 青年が家人に声を掛けるとしばらくして勢い良く扉が開いた。 「おっかえりー!ねぇお兄さん!お夕飯?お夕飯だよね?ねぇ?」 「何なら自分で作っておいても俺は一向に構わなかったのだが」 「わたしも帰ってきたのはさっきだしねぇ、商店街をうろついたり図書館に通ったりが色々で忙しかったのだよ」 「そうか、じゃあ夕飯の準備を手伝って……」 「あー!」 手伝いを頼むやいなや、家人のシュシュは大きな声を上げた。特に意味もなく家中によく通る声である。 「これ!キノコ入ってるよ!ねぇ!」 籠を開けた彼女は目ざとくキノコを発見し、兄に不満をぶつける。それは、彼女にとって忌避すべき食材なのだ。 「そうだ。いい加減食べられるようになれ」 「やーだもーん。それならわたし、手伝ってあげないよねぇ」 「そうか、じゃあ適当に待ってろ」 幾度となく繰り返されたやり取り。彼の対応は慣れたものである。 「うええー!そこは今日こそそのおぞましい物体をゴミ箱に投げつけてねぇ、俺が悪かった、ってお兄さんが改心する流れじゃないの?ねぇ!」 「そんな都合のいい流れがあるかよ。今日こそ食べてもらうぞ」 「やだー!」 少女が叫びながら奥の部屋へ逃げていくのを見届けると、青年は早速夕飯作りに取り掛かった。 樹海で採れたものはせいぜい野菜くらいだったが、ここ最近は少女が街へ出た際に果実やナッツの類を貰ってくる事が多く、食事のメニューは昔と比べれば幾分華やかになっていた。 しかも、昼に街の料亭で食べるものと同等かそれ以上においしい、というのが少女の感想で。 初めに聞いた時は、耳を疑ったものだった。街の料亭のレベルの低さに。 テーブルクロスの上に野菜の盛り合わせとデザートのリンゴを並べた頃、少女が戻ってきた。 「わーできてるできてる!食べていい?ねぇ食べていい?お兄さんお兄さん!」 「手洗えよ」 「はい!はいはいはーい!」 台所の蛇口で手を濡らしてきた少女は流れるようにテーブルクロスで手を拭いたが、青年はどうせいつものことだと小さくため息をつき、見なかったふりをした。 「いただきます」「いただきます!」 黙々と食べる青年。時折「んー」「むふー」と感嘆の声を漏らしながら食べる少女。 4年ほど前から続いている、いつもの光景だ。 野菜の量が半分を切ったあたりで、頃合いだと思った青年は少女に語りかけた。 「今から俺は、世間一般の常識で考えてすごくおかしな事を言うと思う」 「むふ?」 口いっぱいにトマトを詰めた少女は、青年の言葉に首を傾げた。 「もうお前も15歳になる。そろそろ伝えておかないといけないと思ってな」 青年は、そんな少女を見てもあくまで真面目な表情で言葉を続ける。 そんな青年を見た少女は、口にトマトを詰めている事に若干の居心地の悪さを感じたらしく、気持ち早めに噛んでごくりと飲み込んだ。 「えー、なになに?あ、分かった、実はねぇお前は血の繋がった妹ではなかったんだよみたいなアレでしょ。この間ねぇ街の図書館でそういう本読んだことあるんだけど……」 「…………」 「…………」 茶化したつもりだったものの、沈黙という予想外の反応をされた少女は、思わず口を噤んだ。 しばらく気まずい空気が流れるも、少女の方が耐えきれず言葉を続けた。 「もったいぶってないで早く言ってよ、ねぇお兄さん。わたしね、別に血の繋がりがなくったって構わないんだよ」本心からそう思っている、と付け加えて。「ここに来てから今まで育ててくれたお兄さんのことねぇ、わたし大好きだし」 少女の言葉を皮切りに、青年は静かに口を開いた。 「実はお前な」 「う、うん」 「元々はしいたけだったんだよ」 「…………は?」 絶句する少女。 「だから、しいたけ。樹海で拾ってきた」 それに対して、何でもないかのように意味不明な事を告げる青年。 「……えっと、どゆこと?わたしが元々しいたけって、ねぇ何?」 「そうか、自覚はなかったわけだな……」 興味深そうに細い目をして少女を見つめる青年に、少女はただ戸惑うばかりだった。 「え?えええ?えっと、元々しいたけって事はだよ?ねぇ、しいたけが変身して人間の姿になってるって言いたいの?」 「変身してるっていうか、しいたけから人間が生えてきていると俺は判断したんだが」 「そんなの尚更意味わかんないよー!」 「状況的にそう考えるしかなかったんだって。ほら、お前の頭に2つ付いてる、それがきっと本体だ」 「こ、これ……?」 青年に促され、少女は今まで髪飾りだと思っていた2つの物体を、恐る恐る触る。 「あ……っ」 最初は何とも思わなかった。しかし、その2つの物体を意識すればするほど、身体を内側から撫でられているような奇妙な感触に支配されていく。 確かに、今まで過ごしてきておかしいなと思う事はあった。頭についたこの丸い物体は、何故兄や街の人々にはついていないのだろうか、と。 思い返してみれば、髪を洗う時は無意識にここに触るのを避けていたような気がする。 そう、この時少女は思い出した。しいたけこそが自分自身であった事を。 「って、そんなわけないもーーーーーーーーーん!!」 大声を上げる少女に青年は一瞬驚いたものの、一拍置いて口を開いた。 「到底信じられないのは分かる。俺もそうだった。だがな」野菜の盛り合わせが乗った大皿のある一点を指差し。「現にお前はこいつを一度も口にしたことがない」 「それは……そだけど……ねぇ」 何でも食べる少女が唯一避ける食べ物、それがキノコであった。 「お前がしいたけじゃないって主張するつもりなら、まずはそれを食べてみろよ。ちょうどあの時と同じ種類のしいたけを探してきたんだ、少しばかり小さいがな」 「それは嫌!」 そう挑発する青年は不敵に笑いながら少女に問う。 「じゃあ、何で嫌なんだ?理由を説明してみろよ」 「だって……そう、嫌いな味がするから!お兄さんだってねぇ、嫌いなものくらいあるでしょ」 「生憎俺に嫌いな食べ物はないし、そもそもお前が一度でもキノコを食べたところを見たことがない」 「そ、それは……あっ!街!街に出た時に料亭でねぇ、食べた事があるの!料理に入ってて……それならお兄さんもねぇ、知らないでしょ」 もはやしどろもどろになりつつある少女の言葉に、青年は呆れながら続ける。 「じゃあ仮にそうだとして、だ」 「あー!信じてない!ひどい!ひどいよ!」 「一体どんな料理に入ってたんだ?それだけ嫌な味がしたのなら当然覚えてるだろ」 「えっと、それは、うーんとねぇ……」 「何だ、すぐに答えられないのか?」ここぞとばかりに追い詰める青年。 少女が積み重ねようとした小さな嘘は、いとも簡単に瓦解した。 「……お兄さんの、いじわる」 大皿の隅に避けられたしいたけを見つめながら、少女はぽつぽつと語り始める。 「……何かねぇ、気持ち悪いの。わたしはこれを絶対に食べてはいけないような……生理的に無理みたいな……」 「強い嫌悪感を覚えるというわけか」 「うん……あ、でもお兄さんとか他の人が食べている分にはねぇ、いいんだよ?何とも思わない……わけじゃないけど……ちゃんとねぇ、我慢できるし、わたし」 「そうか」青年は頷くと、2人の視線が集めっていたしいたけにフォークに挿し込む。 それを見て反射的に、ひっ、と声を上げてしまう少女。 「…………」 「…………」 無言のまま、青年はしばらくしいたけを挿したフォークを宙に彷徨わせた後、遂にはそれを口に含んだ。 少女は青年から目を背け、静かな部屋にはただ咀嚼音が響く。 青年はしいたけを飲み込んだ後、静かに口を開いた。 「夕飯にキノコを出すのは、これで最後にしよう」 「……ほんと?」少女はにわかに目を見開き、信じられないものを見るような顔で青年を見つめる。 「……俺だって毎日人間が目の前で串刺しにされているのを見たくはないからな……」と小さく呟く声は少女には届かない。 「ほんとなの?ほんとなの、ねぇ?」 「ただし」目を輝かせる少女を諭すように、青年はテーブルを軽く叩いた。「お前自身が自分の事をしいたけだと認めたら、だ」 「しいたけ」 「そうだ」 少女はしばらく俯いて考え込んでいたが、やがて何か思いついたという様子で顔を上げた。 「……樹海で拾ってきたって、言ってたよねぇ、さっき」 「そうだ」 少女の表情がぱあっと明るくなり、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。 「それならわたしはねぇ、その樹海に行きたい。世界樹様ってところなんでしょ、街の人もねぇ、よく世界樹様の話してたよ。何とかっていう伝説があるんだって」 「あの樹に……?あのなお前、あそこは冒険者じゃないと入れない事になっているんだ」 「じゃあその冒険者っていうのにねぇ、わたし、なる!」 「おい……」 「明日行こ!冒険者ギルド!そこで登録するんだって聞いた!いや今いこ!ねぇ!」 青年は急かす少女に辟易しつつも、落ち着いて説得を試みた。 「よーく聞け。冒険者として認められるにはギルドに登録するだけじゃだめだ。大公宮が出す試験に合格しないといけない。それで初めて世界樹の通行許可証が出るんだ」 青年は壁に掛けてあった許可証を手にして、少女に見せつけた。 「そうなんだ!じゃあそれ取りに行こうよ、ねぇ」 「俺の時も人集めにはそれなりに苦労したんだ、都合よく試験の面子が揃うかどうかは……」 「ねぇお兄さん、これ、ここ」許可証をじっと見ていた少女が、一点を指差して言った。 「何だ」 「ここに書いてある有効期限っていうのがねぇ、もうあと10日もないみたいだけど……」 「なん……だと?」 そう、大公宮が出す通行許可証には、一昔前から有効期限が設定されるようになった。 これは前述のような非冒険者でありながら世界樹に出入りする連中に対する、大公宮が取った嫌がらせにも似た対策であった。 そもそも通常の冒険者であれば、有効期限が来る前に命を落とすか、期限が来てもその頃には簡単に達成できるような試験である。 冒険者でない者達にとっては、まさに目の上のたんこぶとでも言うべき問題だ。 期限が間近になるまでその存在を忘れていたとは、完全に失態である。 青年は頭を抱えた。その一方で、逆に嬉しそうにはしゃぐ少女は立ち上がり、口を開いた。 「っていうことはだよ、お兄さんもねぇ、一緒にこれ取りに行かないとご飯に困っちゃうわけだよねぇ」 「いや他人事のように言うなよ」 「これはわたしと一緒にねぇ、新しい許可証をもらいに行くしかないよ!」 その場で嬉しそうにくるくる回転しながら手を合わせる少女を見て、青年はふぅ、とため息をついた。 確かにいずれ解決しなければならない問題だ。 それは許可証はもちろん、この突然出来た不思議な「妹」の正体についても、何か掴めるのではないかと考えていた。 「……分かった。でも行くのは明日だ。今日はもう遅い、寝るぞ」 「こんなにねぇ、楽しみにしてるのに、お兄さんはわたしに今から寝ろと!?」 「今から寝ろ、大公宮は朝の5時からやってるから」 「5時って!どんな老人なのそれ!?ねぇ!」 おしまい。