「おじいちゃん聞いて！エスバットってギルドが……」
早速、公宮に告げ口しにいくあゆみ。
酒場の常連が見たら驚くだろう、その姿は子供そのものであった。

「そんな……樹海って、自由なところじゃなかったの？」
最初に伝えられた説明を拡大解釈した認識を口にする。
だが、大臣の返答は曖昧なもので……。
それでも引き下がるあゆみ。全ては「聖杯」を手にする為だ。

「……要するにキマイラと同じようなのがいるわけ」
一国の大臣に対してすっかり尊大な態度をとるようになったあゆみ。
迷わずミッションを受けたのだった。

先程道を塞がれた場所に再びやってくると、相変わらず少女と老人が道を塞ぐようにして立っていた。
「あら、早速ミッションを受けてきたって顔してるわね」

「……どうして分かるの」
「顔に書いてあるわ、分かりやすいんだから」
「うー」
ポーカーフェイスができないあゆみ。

「炎の魔人は強いわよ。自信の程は？」
「ど、どんなのが出たって私、この黒魔術があれば平気よ」

「あ」
気が付いたら強大なモンスターに囲まれていたあゆみ。
しかし、慌てることなく糸を取り出して呟く。
「いつでも安全に帰れるって、天神小よりずっと安全よね」

「新しいもの、ご用意しました！」
交易所のめでたそうな娘は、あゆみにおすすめの杖を掲げて手招きしてくる。
体力が上がる魔力が込められた杖は、あゆみにとって生命線となる。

「それにしても何で杖なのかなぁ」
「はい？　えーと……なんででしょう……あ、ごめんなさい！売る方が商品の事を知らないなんて、ダメですよね……しっかりしなきゃいけな」
だらだら喋り始める売り子を慌てて遮る。
「あーごめん、そんなに気にしてないってば」
「そんなに」
「そ、それじゃあね」

遂に恐ろしい殺気と熱気が漂う扉の前に辿り着いた。
「ここに……炎の魔人が？」
一旦街に戻り、万全の体勢を整える事にした。
また、戻った理由はそれだけではない。

「……ふぅぅ」
また、キマイラの時と同じように、幾度となくファクト・ループを繰り返す事になるだろう。
その心の準備が必要だった。

「う……こ、こんな大きな……！大丈夫、キマイラだってこれくらい大きかったもの！」
そして、幾度目かの地獄が幕を開けた――

「あ……れ……？」
マイマイの殻から顔を覗かせるあゆみが見たのは、倒れた炎の魔人と慌てて逃げていくフレイムキューブの姿であった……。
「なんか倒してた」
途端に力が抜けて尻餅をつくあゆみであった。